大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和43年(オ)1144号 判決

上告人

合同印刷株式会社

代理人

梅沢秀次

被上告人

小河内観光開発株式会社

代理人

朝山豊三

主文

原判決を破棄する。

本件を東京高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人梅沢秀次の上告理由第一点について。

取締役会を招集するにあたり、取締役全員に対してその通知を発しなければならないことは、商法二五九条ノ二の規定に徴して明らかであり、所論のように、たんに名目的に取締役の地位にあるにすぎない者に対しては右通知を発することを要しないと解すべき合理的根拠はないから、原判決に所論の違法はない。論旨は、独自の見解に立つものにすぎず、採用するに足りない。

同第三点について。

取締役会の開催にあたり、取締役の一部の者に対する招集通知を欠くことにより、その招集手続に瑕疵があるときは、特段の事情のないかぎり、右瑕疵のある招集手続に基づいて開かれた取締役会の決議は無効になると解すべきであるが、この場合においても、その取締役が出席してもなお決議の結果に影響がないと認めるべき特段の事情があるときは、右の瑕疵は決議の効力に影響がないものとして、決議は有効になると解するのが相当である(最高裁判所昭和三六年(オ)第一一四七号同三九年八月二八日第二小法廷判決、民集一八巻号一三六六頁参照)。

しかるところ、記録に徴すれば、第一審判決は、右の法理に基づき、被上告会社取締役会において本件取引に対する承認決議がなされた際の事情を認定したうえ、右取締役会に出席しなかつた訴外岡部為三および同白井卯蔵に対しては取締役会の招集通知がなされなかつたが、右岡部はいわば名目的に取締役に名を連ねているにすぎず、したがつて、同人らに対して適法な招集通知がなされ、同人らが取締役会に出席しても、前記承認の意思決定に影響がなかつたものと認められるとし、本件承認決議が有効になされたものとの判断を示したところ、上告人は、原審において右判断を援用し、本件決議の有効性を主張していることが認められるから、上告人は、原審において前記特段の事情を主張していたものと解すべきである。しかるに、原判決は、本件取締役会の開催については、取締役の一人である岡部に対し招集通知がなされなかつたこと(白井に対する招集手続の有無については確定するところがない。)、岡部および白井が前記取締役会に出席しないまま前記承認決議がなされたこと、右両名がのちに右決議内容を承認した事実は認められないことを確定しただけで、上告人の前記主張については格別の判断を示さないまま本件承認決議は無効であると断定し、これが有効であることを前提とする上告人の請求を排斥しているのである。

してみれば、原判決には当事者の主張に対する判断を遺脱した違法があるが、右主張の成否は原判決の結論に影響を及ばすものであるから、同旨をいう論旨は理由があり、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。

よつて、右主張の成否についてさらに審理を尽くさせるため、民訴法四〇七条に従い本件を原審に差し戻すべきものとし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。(松本正雄 田中二郎 下村三郎 飯村義美 関根小郷)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例